2024年09月10日
長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科(現:総合生産科学研究科)の長谷川 悠波 助教と河端 雄毅 准教授らは、ニホンウナギの稚魚が捕食魚に丸呑みされた後に、その胃の中から消化管内を遡ってエラの隙間から脱出することを明らかにしました(図1)。
ポイント |
図1. ニホンウナギ稚魚が捕食魚であるドンコに捕獲されてから、そのエラの隙間から脱出するまでの 一連の流れ 動画URL:https://youtu.be/uRBe9ZJrpfo?feature=shared |
【発見の経緯と意義】
ニホンウナギは重要な水産資源ですが、絶滅危惧種に指定されるなど、その資源量は著しく減少しています。長谷川悠波 助教と河端雄毅 准教授らはこれまでの研究によって、ニホンウナギ稚魚が捕食魚であるドンコに捕獲された後に、そのエラの隙間を通って脱出できることを明らかにしていました
※(Hasegawa et al., 2022)。しかし、ウナギがどのような脱出経路・行動特性で捕食魚のエラの隙間から脱出しているのかは一切わかっていませんでした。そこで本研究グループは2022年より、造影剤である硫酸バリウム水溶液をウナギに注入し、X線映像撮影装置(MFX-130HT, HITEX社製)内で捕食魚(ドンコ)にウナギを捕獲させ、ウナギの脱出行動を観察する研究を開始しました。
実験開始当初、本研究グループは、ウナギが捕食魚の口内からエラの隙間に向かって脱出しているのだろうと考えていました。しかし得られたX線映像から、衝撃的な事実が明らかになりました。ウナギはドンコに飲み込まれ、体の一部が胃まで達した後に、ドンコの消化管内を食道、エラへとたどって脱出していたのです(32匹中9匹が脱出)(図1)。ウナギの体全体がドンコの胃の中に完全に飲み込まれた際には、脱出可能な経路を探るように胃の中でぐるぐると回転する行動がみられました(11匹で観察、5匹が食道への尾部差し込みに移行)。脱出に失敗したウナギは、ドンコの消化管内で徐々に弱っていき、平均200秒ほどで完全に動きがみられなくなりました。
この研究成果は、主に2つの点で意義があります。
1つ目は、行動学的・生態学的な面白さです。捕食者に捕獲された後にその消化管内から能動的に脱出する行動は、魚類以外の分類群を含めても非常に珍しい行動と言えます。本研究によって、ウナギはいくつかの特徴的な行動を駆使して、捕食魚の消化管内から脱出することがわかりました。本研究成果から、脱出行動にはウナギの細長くぬるぬるとした形態に加えて、消化される前に素早く胃から食道、エラへと脱出するための筋力や、捕食魚の胃の中という強酸性で嫌気的(無酸素)な環境への耐性なども、重要な要素だと考えられました。
2つ目は、実験手法の独自性・応用可能性です。獲物にバリウムを注入し、捕食者体内での獲物の行動をX線映像撮影するという実験手法は、これまでに例がありませんでした。そこで本研究グループは、バリウムを注入する際の注射針のサイズ、バリウム懸濁液の濃度・注入量、適切なウナギのサイズなどを半年以上試行錯誤し、ウナギ稚魚が捕食者の胃から脱出する様子を撮影することに成功しました。この独自の実験手法は、他の獲物が捕食者に捕獲された後の、脱出の経路や行動特性を探る際にも応用可能です。
<謝 辞>
本研究は日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究B:21H02269、研究活動スタート支援:23K19307)の助成を受けて実施しました。
<論文情報>
雑 誌 名:Current Biology(Impact Factor = 9.2)
論 文 名:How Japanese eels escape from the stomach of a predatory fish
U R L : https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(24)00926-6
執筆者名:長谷川 悠波(長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科)
峰 一輝(実験当時:長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科)
平坂 勝也(長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科)
横内 一樹(国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産資源研究所)
河端 雄毅(長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科)
掲 載 日:2024年9月9日
<参 考>
※2021年12月20日 世界初の発見 捕食魚のエラの隙間からウナギの稚魚が脱出 https://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/science/science253.html |
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▶長谷川悠波助教 リサーチマップ https://researchmap.jp/Hasegawa-Yuha |
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▶河端雄毅准教授 リサーチマップ https://researchmap.jp/KawabataYuuki |
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▶河端雄毅准教授 研究室 https://sites.google.com/site/kawabatalaboratory/ |
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▶長崎大学大学院総合生産科学研究科 https://www.ist.nagasaki-u.ac.jp/ |