2022年12月09日
この度、国立大学法人長崎大学とネオファーマジャパン株式会社(以下NPJ)は、ミトコンドリアのATP産生障害によるインスリン分泌障害を特徴とするミトコンドリア糖尿病*1(MIDD)患者への5-アミノレブリン酸*2(以下、「5- ALA」)とクエン酸第一鉄ナトリウム(以下、「SFC」)投与による耐糖能の改善効果を確認し、MIDDに対する新規かつ有効な補助的治療法になりうる可能性を報告しました。
本研究は、2022 年 11 月 22 日(日本時間)に国際学術誌「Diabetes Therapy」に正式に掲載されました。
■本研究のトピックス
・ミトコンドリア糖尿病(MIDD)は、日本の糖尿病患者の約1%に存在するとされています。
・MIDD患者を対象に5-ALA/SFCを投与し、インスリン注射の補助療法としての有効性を検討しました。
・5-ALA/SFC投与24週後、糖負荷試験を行ったところ、次の結果が得られました。
▶血糖値の有意な減少がみられました。
▶インスリン分泌の増加傾向がみられました。
▶HbA1cの値は、有意な差はないものの、ベースラインの8.3±1.2%から7.9±0.3%へ減少しました。
・5-ALA/SFCはMIDDに対する新規かつ有効な補助療法の候補として期待されます。
■概 要
ミトコンドリア糖尿病(MIDD)は、ミトコンドリア遺伝子の突然変異が原因で発症する糖尿病で、難聴を特徴とし最終的には頻回のインスリン治療が必要となります。5-ALA は天然に存在するアミノ酸であり、すでに 10 年以上前から各種ヘルスケア製品に活用されております。 ⾧崎大学では5-ALA の機能性に着目し、マラリアやCOVID-19の治療薬の開発*3を進めてきました。また、5-ALA はクエン酸第一鉄ナトリウム(SFC)を組み合わせて投与するとミトコンドリア機能を改善することから、今回我々はMIDD患者を対象にインスリン注射の補助療法としての有効性を検討するための予備的研究を行いました。結果、5-ALA/SFC投与24週後の糖負荷試験において血糖値の後期相(AUC60-120min)の有意な減少とインスリン分泌(AUC0-120min)の増加傾向およびHbA1cの低下傾向が確認されました。MIDDに対する新規かつ有効な補助療法の候補としてさらなる研究を進める価値があると考えられます。
■論文情報
・タイトル:Pilot Trial on the Effect of 5-Aminolevulinic Acid on Glucose Tolerance in Patients
with Maternally Inherited Diabetes and Deafness
・著 者:
中村 祐太(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科先進予防医学講座 内分泌・代謝内科学分野)
原口 愛(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科先進予防医学講座 内分泌・代謝内科学分野)
堀江 一郎(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科先進予防医学講座 内分泌・代謝内科学分野 講師)
川上 純(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科先進予防医学講座 内分泌・代謝内科学分野 教授)
阿比留 教生(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科先進予防医学講座 内分泌・代謝内科学分野)
掲載誌:Diabetes Therapy 2022 Nov 22.
URL: https://link.springer.com/article/10.1007/s13300-022-01335-8
DOI: 10.1007/s13300-022-01335-8.
【用語解説】
*1 ミトコンドリア糖尿病
ミトコンドリアは、細胞内のエネルギー産生等に重要な役割を担っています。ミトコンドリアは、独自のDNA(ミトコンドリアDNA)を持つ事が知られており、このミトコンドリアDNAの変異によって発症する糖尿病をミトコンドリア糖尿病と呼びます。ミトコンドリア糖尿病患者は見逃されているケースが多く、わが国の糖尿病患者の約1%に存在するとされ、単一遺伝子による糖尿病としては最多です。また、ミトコンドリアDNAは後天的な変異(体細胞変)を起こしやすい特徴を持っていますので、老化と共に変異が蓄積し、ミトコンドリア機能に障害を及ぼす可能性もあります。糖尿病としては、1型糖尿病、SPIDDM、2型糖尿病と多彩な病型を示します。症状としては高率に感音性難聴を伴うのが特徴です(約90%)。また、心筋症や心刺激伝導障害、脳筋症の症状も他の糖尿病型よりも高率に認めます。
*2 5-アミノレブリン酸(5-ALA)
ヒトや動物・植物は細胞内のミトコンドリアという細胞小器官でエネルギーを作り出すことで生命活動を維持しています。このミトコンドリアが機能するために、5-アミノレブリン酸(5-ALA)は非常に重要な役割を果たしています。5-ALA は、すでに10 年以上前から健康食品、化粧品、ペットサプリメント、飼料、肥料に活用されている非常に安全性の高いアミノ酸です。また、5-ALA は、ミトコンドリアの機能を向上させることが知られており、埼玉医大を中心としたミトコンドリア病の第 3 相医師主導治験が進められています。
http://5ala-journal.com/
*3 2022年4月13日付、長崎大によるプレスリリース
本リリースでは、5-アミノレブリン酸(5-ALA)による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)オミクロン株に対する感染抑制の確認について報告しています。長崎大では、これまでの研究から、5-ALA が COVID-19 の原因ウイルスである SARS-CoV-2 及び、デルタ株を含む 4 種の変異株の感染を、培養細胞において一定の濃度以上で完全に抑制することを示していました。本研究でも同様に、細胞を用いた試験において、オミクロン株の感染を抑制する結果が得られました。
https://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/science/science266.html