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新たな作用のインフルエンザ治療薬の候補物質を発見〜スーパーコンピューター「DEGIMA」を用いて〜

長崎大学医歯薬学総合研究科の感染免疫学講座の西田教行教授(先端計算研究センター創薬部門長を兼務)とウイルス学を専門とする渡邊健助教、量子化学を専門とする石川岳志准教授らの研究グループは、医学部分子標的医学研究センター、熱帯医学研究所新興感染症学分野と共同で、インフルエンザ治療薬の候補を開発しました。インフルエンザはインフルエンザウイルスを原因とする感染症ですが、インフルエンザウイルスは遺伝子変異が非常に早く、現在広く使われている「タミフル」、「リレンザ」等の抗インフルエンザ薬に対する、薬剤耐性ウイルスが既に出現しています。こうした薬剤耐性ウイルスの大流行に備えて、新たな作用機序をもつ抗インフルエンザ薬を開発することが喫緊の課題となっています。

今回の研究では、インフルエンザウイルスの増殖に必須なウイルスポリメラーゼ蛋白質PA(図1)に着目しました。このPA蛋白質との結合能をもつ化合物を効率よく探索するために、本学で保有するスーパーコンピューター「DEGIMA」で超高速計算を実施しました(図2)。また、蛋白質と化合物の結合能の計算には、本学が独自に開発したソフトウエア「Nagasaki University Docking Engine: NUDE」を用いました。これにより、約60万の候補化合物の結合能を調べ、そのうち上位約100種の化合物について、培養細胞を用いて実験的にインフルエンザウイルス増殖抑制作用を評価しました。この結果、14種類の化合物に、明らかな抗インフルエンザウイルス作用が見出され、なかでもキノリノン構造をもつ「PA-49」は50%感染阻害濃度(IC50)が0.47uMと非常に高い活性を示しました(図3)。計算に基づくインシリコスクリーニングでIC50値が1uMより小さい化合物が発見されたことは、DEGIMAの優れた計算性能とNUDEのプログラムの優秀さを実証したものと言えます。

今回の研究は、本学における医工連携事業の一つとして実施したもので、研究成果は、英国の科学誌『Scientific Reports』に8月25日付で掲載されました。また、本論文で発表された成果に基づき、さらに活性の高い抗インフルエンザ薬の実用化を目指して、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)の支援を得て新薬開発を続けています。研究チームがAMEDに提案した研究課題「薬剤耐性RNAウイルス出現予測法の確立と迅速制御のためのインシリコ創薬」は今年7月、平成29年度「感染症研究革新イニシアティブ(J-PRIDE)」に採択され、計算機による変異ウイルス出現の予測とそれを制御することを目指して、研究を展開しています。


発表論文:
Ken Watanabe, et al. Scientific Reports. 2017
Structure-based drug discovery for combating influenza virus by targeting the PA–PB1 interaction
(和訳:PA-PB1相互作用を標的とした蛋白質構造に基づくインフルエンザウイルス対策のための薬剤開発)

DOI

平成29年度「感染症研究革新イニシアティブ(J-PRIDE)」採択課題掲載ホームページ http://www.amed.go.jp/koubo/010620170310_kettei.html

図1
図1

 

図2
図2

 

図3
図3

 

PA-49(茶色)が、PA蛋白質(灰色)にはまり込んでいる分子の図
PA蛋白質(灰色)と結合するPA-49(茶色)