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教育学部の大庭准教授がタガメの卵保護行動で新知見:卵を守るオスは天敵のアリを物理的・化学的に排除する

卵を産みっぱなしにする昆虫が多い一方で、親がとどまり、天敵から卵を守る昆虫も知られます。
タガメの父親による卵の保護(図1)は給水が主な役割だと考えられていましたが、天敵であるアリが卵に近寄ってきた場合、父親が脚で追い払うとともに、臭いでアリを追い返すことが明らかになりました。

タガメの卵は水面に突き出た水生植物などに産卵され、オスが孵化直後まで世話をします。野外では植物が多い池や沼、水田に生息するため、アリが岸から植物を伝ってタガメの卵を襲うことがあります。
国立大学法人 長崎大学教育学部の大庭伸也准教授と同学部学生の前田愛理さん(2013年度卒業)の研究グループは、アリがタガメの卵を攻撃できる状況を実験的に作り、卵を保護しているオスを除去した場合と除去しない場合の卵の孵化率を調べました(図2)。
その結果、オスを除去しない場合に比べ、オスを除去した場合はアリの捕食により卵の孵化率が下がりました。また、タガメのオスが卵の上にいるときは、アリがタガメの卵に近づきにくいことに加え、アリがたくさん集まった際にオスが、“カメムシが出すような青臭い臭い”を放ち、アリを追い返すことも確認されました。
陸に棲むカメムシの一部では、卵の保護中にアリが近づくと、“カメムシ臭”を放ち、卵を守り抜くことが以前から知られていましたが、水生生活のタガメのオスも同様の行動をとることが今回初めて明らかにされました。タガメも一般に知られるカメムシと同じカメムシ目(もく)に属することから、化学的防御はカメムシ目に共通する行動であると結論付けられます。

この研究結果は、親が子の保護をする昆虫において共通する『天敵から子供を守る』役目がタガメにもあることを確認したと共に、臭いによる化学的防御は陸生や水生を問わず、共通する防衛戦略であることから、昆虫の親による卵の保護行動が進化した背景を理解することに貢献する知見として評価されています。
本研究の成果は英国王立昆虫学会の専門誌『Ecological Entomology』に2017年3月23日に早期公開されました。

論文タイトル:Paternal care behaviour of the giant water bug Kirkaldyia deyrolli
(Heteroptera: Belostomatidae) against ants.

論文(英文)ダウンロード:
http://onlinelibrary.wiley.com/wol1/doi/10.1111/een.12398/abstract


図1.卵を守るタガメのオス


図2.タガメのオスの有無とアリの有無を組み合わせた実験デザイン。オスなしの場合は、
人工的な給水を行った。オス除去・アリ攻撃区で顕著に孵化率が低下するが、他の処理区
間では孵化率に差がなかった。