2016年10月11日
ヒトの設計図であるゲノムDNAは、細胞核内でヒストン蛋白(たんぱく)とともに高次構造を作り、染色体を構成します。長崎大学医歯薬学総合研究科の伊藤敬教授(生化学分野)の研究チームは、このヒストン蛋白のリン酸化が、癌(がん)化を引き起こすことを明らかにしました。
従来、癌発生にはゲノムDNAの変異による癌遺伝子の活性化と癌抑制遺伝子の不活性化が関与することが明らかにされてきました。このメカニズムはゲノムDNAの変化を伴い、ジェネティックな機構と呼ばれています。一方、ゲノムDNAの変化を伴わない癌化のメカニズムも存在し、エピジェネティックな機構と呼ばれています。エピジェネティックな機構の本体は、DNA蛋白高次構造すなわちヌクレオソームを形成するヒストンのリン酸化、アセチル化、メチル化等であることが考えられています。
研究チームはヒストン蛋白のリン酸化に注目し、ヒストンH2AのC末端リン酸化が種々の癌細胞において多く観察されることを明らかにし、これらのリン酸化はVRK1と呼ばれるリン酸化酵素により引き起こされる事を証明しました。癌培養細胞を用いてヒストンリン酸化酵素VRK1の機能を低下させると、癌細胞増殖に必要な遺伝子発現が低下し、癌細胞増殖も低下します。これらの発見はヒストンリン酸化酵素の異常によるエピジェネティックな癌化メカニズムを証明したものです。
ヒストンH2Aのリン酸化は、大腸癌や胃癌で多く観察され、癌特異的な抗癌剤の良い標的となります。
今回発見した新規の作用点を用いて有望な抗癌剤のスクリーニングが可能となりました。
今回の研究成果は、米国の科学誌『Molecular Cell』のオンライン版で、米国東部標準時で10月6日正午に掲載されました。
http://www.cell.com/molecular-cell/fulltext/S1097-2765(16)30561-5
この研究は文部科学省新学術領域研究課題番号24118003の助成を受けたものです。