2016年06月06日
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の西田教行教授(感染免疫学講座)らの研究グループは、狂牛病などで知られるプリオン病の原因物質であるプリオンが金属表面に付着している状態を直接検出する新しい手法(リアルタイム・クイック法を用いてのステンレス鋼ワイヤーに付着したヒトプリオンの直接的評価法)を開発し、4月26日、英国の自然科学分野の電子ジャーナル『Scientific Reports』に発表しました。
「Wire-QuIC」と命名されたこの手法は、手術器具などに付着したヒトプリオンの活性を直接測ることができるため、手術器具などからの感染を防ぐことができ、医療の安全性向上につながると期待されています。プリオンは、これまでに人類が解明してきた病原体のなかで最も不活化(病原体の感染性を失わせること)が難しい病原体として知られており、病院の感染症対策において最も厄介な病原体の一つです。過去には、角膜移植や硬膜移植、脳外科手術などによって感染発症した例が少なからず報告されています。http://cms-univ.cc.nagasaki-u.ac.jp/admini/science/edit.php
ヒトプリオン病は人口100万人に対して年間1人ないし2人の新規患者が発生するという極めて珍しい疾患であり、国内発生は年間およそ150人にとどまっています。その一方で、プリオン病に感染発症した場合には100%死に至ると言われ、現在でも有効な治療法がありません。それだけに、医療事故による感染を極力避ける必要があります。今回開発された方法を用いて医療用の手術器具洗浄機、内視鏡洗浄機の洗浄効果評価が厳密になされるようになれば、安全性が向上すると期待しています。
なお、この研究は、平成24年度に経済産業省が募集した「課題解決型医療機器等開発事業」に採択されたもので、「2次感染及び作業管理問題を解決する硬性内視鏡用洗浄・消毒医療機器の改良」がテーマ。長崎大学と協和機電工業(本社:長崎市)、クリプトン(本社:東京)の3者がコンソーシアムを構成し、産学連携事業として実施しました。また、本事業で開発した内視鏡洗浄システムの病原体洗浄効果検証結果は、米国の自然科学分野の電子ジャーナル『PLOS ONE』に5月25日付で掲載されましたので、あわせてご報告いたします。
Tsuyoshi Mori, et al. A direct assessment of human prion adhered to steel wire using real-time quaking-induced conversion. Scientific Reports 6: 24993, 2016.
論文タイトル日本語訳『リアルタイム・クイック法を用いてのステンレス鋼ワイヤーに付着したヒトプリオンの直接的評価法』
Yuichiro Nakano, et al. Sequential Washing with Electrolyzed Alkaline and Acidic Water Effectively Removes Pathogens from Metal Surfaces. PLOS ONE 11(5): e0156058, 2016.
論文タイトル日本語訳『電解アルカリ水と酸性水を連続的に使用することで金属表面に付着した病原体を効果的に除去しうる』