2016年05月10日
福島第一原子力発電所事故から5年が経過しました。福島県では避難区域における復興に向けた作業が進められており、川内村をはじめとするいくつかの町村では除染、インフラの整備が完了して避難指示が解除され、住民の帰還が進んでいます。一方で、福島県における住民の放射線被ばくに対する不安は、事故当初に比べるとかなり軽減されてきていますが、長期にわたる避難に伴う不信感からまだ完全には払拭されていないのが現状です。
福島県は県民の健康を長期にわたって見守り、健康に対する不安を解消することを目的として「県民健康調査」を開始し、事故当時0-18歳だった住民約30万人を対象に甲状腺超音波検査を行っていますが、一巡目の検査で110名あまりの住民が甲状腺がん、あるいは甲状腺がん疑いと診断され、県民に波紋を広げています。本来、このような検査を行う場合には、放射線被ばくと疾患との関連性、すなわち因果関係についての丁寧な検証を行うことが大切なのですが、マスコミでのセンセーショナルな報道もあいまって、甲状腺がんの数だけが一人歩きする状態となっています。さらには「福島県における甲状腺がんは多発である」という趣旨の論文が疫学分野の国際雑誌に発表されるなど、県民の不安解消には至っていないのが現状です。
事故から5年となる今年3月、世界的に権威のある米国の学術雑誌『Science誌』に、「Epidemic of Fear(不安の伝播)」と題する記事が掲載されました。この記事では、長崎大学 原爆後障害医療研究所の高村昇教授のインタビューを交えながら、上述した福島県における甲状腺がんを多発と断定した論文の波紋とそれに対する反論、さらには福島県における不安に応えるための方策が記載されています。
この福島県における具体的な取り組みについて、長崎大学と福島県立医科大学から投稿された3篇の短報(Letter)が、先日、5月6日付のScience誌に掲載されました。具体的には、川内村における長崎大学・川内村復興推進拠点の活動に加え、福島県下における専門家と住民との対話の実施、そして福島県民健康調査の現状について両大学から紹介されています。世界の科学界をリードするScience誌がこれらの取り組みを紹介した意義はきわめて大きく、未だ復興の途上にある福島県に向けた力強いメッセージとなることを期待しています。
Science誌URL