HOME > NEWS > 詳細

News

ここから本文です。

  • 教育・研究

ウクライナ学生が福島県被災地視察研修に参加しました

ウクライナ学生と研究者、計11名が8月25日(木)~27日(土)の日程で福島県被災地視察研修に参加しました。

本研修は長崎大学福島未来創造支援研究センターの全面的な支援のもと、公益財団法人福島イノベーションコースト構想推進機構が実施している「大学等の「復興知」を活用した人材育成基盤構築事業」の一環として実施されました。

1日目:8月25日(木)

朝7時15分に文教キャンパスに集合し、長崎空港から中部国際空港を経由して仙台空港へ。仙台空港からは貸切バスで「震災遺構浪江町立請戸小学校※1」へ向かいました。

請戸小学校では、長崎大学福島未来創造支援研究センター長の高村昇先生にご案内いただきました。壁や天井が剥がれ落ちた教室、止まったままの時計、卒業式の看板が飾ったままの体育館など、津波の爪痕を生々しく残す校舎に、みな言葉を失い、高村先生の説明にじっと耳を傾けました。

※1 請戸小学校は震災と津波に襲われましたが、当時通っていた児童93名(うち1年生11名は帰宅していた)は、教職員の迅速な判断と児童の協力により高台に避難したことで、奇跡的に全員助かることができました。しかし、その後の原発事故により避難地域となったことで、児童は戻ってくることができず、震災当時の姿が今も残されています。

請戸小学校にて津波の被害を受けた教室を見つめる学生たち

その後、海岸へ移動し、東日本大震災の後に作られた巨大な防波堤の上を歩いて、震災後そのままの状態で残されている海の家「マリーンハウスふたば」を見学。内部に入ることはできませんが、津波によって大きく壊れた外壁や、跡形もなくなった内部の様子を見て、津波の破壊力の大きさを感じました。

巨大な堤防の上を歩く学生たち マリーンハウスふたばを見学



2日目:8月26日(金)

午前中は東日本大震災・原子力災害伝承館(伝承館※2)を見学。伝承館へ向かうバスに高村先生も同乗し、浜通り地域の被災当時の状況や、現在の復興の様子などを説明いただきました。人がいなくなった家々、バリケードで封鎖された道路、新しく建設中の工場など、車窓から福島第一原子力発電所周辺の変わりゆく景色を見て、学生からは「ウクライナの現状とどうしても重なってしまう」といった声も挙がりました。

      バスの中でお話をする高村先生

伝承館では館長でもある高村先生のご案内のもと、地震・津波・原子力事故発生当時の記録映像や展示を見て回りました。高村先生の説明に真剣に耳を傾けながら、展示を見つめる学生たち。ウクライナの子どもたちから送られた「日本の友達、がんばってね」といったメッセージが書かれた絵画の前では、両国の温かい交流に少し笑顔を見せました。

※2 伝承館は、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故という未曽有の複合災害の記録や教訓、復興の歩みを後世に伝え、国内外へ広く発信するために、2020年に福島県双葉町に建てられました。本学の高村昇教授が設立当初より館長を務めています。

高村先生の説明を真剣に聞く学生たち

伝承館の見学後は、高村先生による講義。震災による被害の様子や、復興に向けた取組み、さらに長崎大学が復興に向けて支援をしてきたプロセスなどについて説明がありました。学生からは「双葉町は帰還者が少ないが、どのようにしたら帰還してくれると思いますか?」「双葉町を再建するのに政府はどのような支援をしていますか?」などの質問が次々と挙がりました。

午前中のプログラムはメディアにも公開して行われ、地元のテレビ局3社、新聞社2社に報道していただきました。

高村先生の講義の様子 積極的に質問をする学生たち



お昼休みを挟み、午後は山下俊一長崎大学名誉教授(福島県立医科大学副学長)による講義からスタート。チョルノービリ原発事故後、長崎大学からいち早くウクライナへ入り健康調査や医療支援を行った経験と、そこで得られた知見が福島における原子力災害への対応と被災者の健康管理体制の構築に役立てられたことなどをご説明いただきました。「過去の歴史を学ぶことは未来、特に子どもたちや次の世代のために責任を持つことである」という力強いメッセージに学生たちは大きく頷いていました。

山下先生の講義の様子

2日目最後のプログラムは、福島大学環境放射能研究所のご協力により、環境放射線測定のフィールド調査を見学。ウクライナ出身のヴァシル・ヨシェンコ教授より、森林の中での放射線の測定方法やその意味、森林における除染はとても困難であることなどについて解説をいただきました。続いて、冨岡町の滝川ダムへ移動し、同じくウクライナ出身のマーク・ジェレズニヤク研究員より、ダムにおける環境放射線測定に関して説明がありました。ウクライナ語によるコミュニケーションに学生たちも喜び、和やかな雰囲気で次々と質問をしていました。終了後、学生から「専門的な内容ではあったが、母国語による説明でとても理解が深まった」との声も聞かれました。

ヴァシル・ヨシェンコ教授(左)・マーク・ジェレズニヤク研究員(右)による

環境放射線測定のフィールド調査の様子



3日目:8月27日(土)

朝7時40分にホテルのロビーに集合し、ドローンパーク川内へバスと途中から乗用車に乗り換えて向かいました。

ドローンパーク川内のオーナーの神藤俊男さんは、震災前に東京からのIターンで川内村に住んでおられましたが、原発事故で避難を余儀なくされたそうです。避難指示が解除された後も、地域住民がなかなか戻って来られない中で何とかこの地域を盛り上げたいとドローンパーク川内を立ち上げられました。神藤さんの震災以後のご苦労や夢についてお聞かせいただき、被災者自身の実感のこもったお話に学生たちも多く共感した様子でした。

続いて、ウクライナの国旗に見立てた矢印ボードにそれぞれの想いを書き、発表してもらいました。「ウクライナに平和を」「自分で未来を切り開いていこう」など、平和を願う気持ちや復興に向けた決意などが書かれました。

神藤さんのお話を真剣に聞く学生たち ウクライナ語でメッセージを書く学生たち

その後、外に出てプロによるドローンのデモンストレーション飛行を見学し、キャタピラーカートに乗車してドローンパーク内を見学。まるでテーマパークのアトラクションに乗っているかのような興奮に包まれました。神藤さんのウクライナの学生を想う温かいおもてなしと激励の言葉の数々に心を打たれました。

キャタピラーカートに乗って見学 パーク内の遊具はすべてウクライナカラーに

最後に神藤さんを囲んで記念撮影



帰りは仙台空港から伊丹空港を経由し長崎空港へ降り立ち、19時30分に文教キャンパスで解散しました。3日間復興について学び続けた学生たちからは、「ウクライナで自分に何ができるかを考えたい」「いつか、福島もウクライナも長崎のような美しい街に復興したい」「今度は福島の災害対応で得られた知識をウクライナに共有したい」など福島における復興を自分ごととして捉え、ウクライナの復興に向けて決意を新たにする姿勢が伺えました。