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2021年度第3回環境フィールドスクール 「長崎の獣害対策―地域資源としての野生動物の活かし方」

10月23日(土)に「アジア環境レジリエンス研究センター(AERRC)」主催の「2021年度第3回環境フィールドスクール」が開催されました。

第3回のテーマは「長崎の獣害対策 地域資源としての野生動物の活かし方」です。

このテーマを担当している環境科学部環境倫理学・環境哲学研究室の関陽子准教授にお話を聞きました。

「このフィールドスクールは、長崎県に協力をいただいて2016年に開始し、今年で5回目になります。1回目は長崎の特産品であるミカンの農家を訪問しました。獣害の実情や対策の工夫を教えていただき、防護柵の補修作業やミカンの収穫体験もさせていただきました。2回目からは、「イノシシを見てみたい」という学生の要望に応えるべく、諫早市鳥獣処理加工販売組合のイノシシの解体施設を訪問することになりました。最初は解体を「見学」するつもり訪問したのですが、施設の方の勧めで学生自らが解体作業を行うことになりました。そこで思いがけず「学生にもできる」ことがわかり、この体験が学生たちに人生を変えるようなインパクトをも与えたようで、その後も施設の方や地元の猟友会のご協力のもとで解体実習を継続して行っています。」「このテーマの目的は、長崎でも甚大化している獣害問題のメカニズムと対策の現状について学生に知ってもらい、「自然との共生」の難しさと奥深さについて、現場の従事者や地域の方から直接学び感じてもらうことです。

加えて私の専門(環境哲学、環境倫理学)からのねらいは、私たちの食生活や社会生活、自然環境が、数知れない〈生〉の犠牲と努力によって成り立っていることを知り、その上で「共生」や「持続可能性」「SDGs」といった環境理念を捉え直し、自身の〈生〉のありようについて立ち止まって考えてもらうことです。またサブタイトルの「地域資源としての野生動物の活かし方」についてですが、捕獲した動物の「利活用」も獣害対策の重要な課題の一つなので、利活用に焦点を当てた内容の実習であるという意味です。近年では地域振興として「ジビエ」がブームになりつつありますが、野生動物の肉は苦労や痛みとひきかえに「いただく」ものであって、決して人間の都合で「生産」することのできないものです。しかし現代人の多くは、「いただきます」という言葉の意味も、あるいはその言葉自体を忘れかけている気がします。「食と農をつなぐ」「食を介して自然と人間をつなぐ」というのも、この実習の隠れたテーマの一つです。」


今回は、環境科学部、水産学部および大学院の学生15人が参加しました。参加理由としては、環境問題に興味があった、サークルの先生から紹介してもらって興味を持った、イノシシの味が気になる、など様々でした。

午前中は長崎県農林技術開発センターにて、長崎県農林部農山村対策室鳥獣対策班の岩永亘平さんと国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の平田滋樹さんに、獣害問題の現状、対策およびイノシシの生態等について講義をしていただきました。学生らは、メモを取りながら熱心に話を聞き、多くの質問をしていました。


<長崎県農林技術開発センターにて>


話を聞く学生たち


質問をする学生


専門家の解説を聞きながらメモを取る学生


資料を読んでいる学生


午後はイノシシの止め刺し(罠にかかったイノシシを絶命させること)を見学しました。

地元のベテランの猟師さんが、実習日に合わせて捕獲しておいてくださいました。野生動物を駆除するのはかわいそう、などの意見をよく耳にしますが、駆除している方々も同じ気持ちです。

止め刺しの様子を見守る学生たち

止め刺しについて解説を聞く学生たち

その後、諫早市鳥獣処理加工販売組合のご協力で、イノシシの解体実習を行いました。3頭のイノシシを三つの班に分かれて作業し、施設の方のご指導をいただきながら、皮を剥ぎ、内臓を取り出して捌いていきます。肉は調理の際に比較しやすいよう、「モモ」や「ロース」など部位ごとに分けて袋に詰めます。イノシシ1頭の解体を5~6人がかりでやっと行うことができました。初めての解体作業で苦戦している学生がほとんどでしたが、水産学部の学生らは授業で鯨類の解剖を行っていますので、慣れた手つきで捌いていました。

<諫早猪処理販売センターにて解体作業の様子>


自分たちで捌いたお肉はそれぞれ持ち帰り、昨年の参加者が作成したレシピを集めた『先輩たちのレシピ集』を参考にしながら、各自で調理を行います。過去の実習では、すき焼きや角煮など、多くの美味しそうなレシピが生み出されています。今年の学生らはどのような調理を行うのでしょうか。調理したレシピは、後日レポートとして提出することになっています。


<過去の実習で生み出されたレシピ>

すき焼き

角煮

実習を終えた3人の学生に話を聞きました。

環境科学部1年 永瀬琉美子さん

「以前から人と動物の共生に興味があり、高校生の頃からそういったテーマの講演会に参加していました。ただ、現地で実際に見ることはできていなかったので、今回実習に参加しました。イノシシを捕獲できるのはもっと山奥と思っていたけれど、畑の近くで捕獲していて驚きました。私たちの班が解体したイノシシはくくり罠(足などをワイヤーでくくる罠)で捕獲されていて、足がボロボロになっていました。午前中のお話で教えていただいたように、捕獲方法の違いによって、肉の品質が変わるということに実感が持てました。私はまだ1年生ですが、卒論は人と動物の共生に関わるものをテーマにしたいと思っています。」


環境科学部1年 阿部宙晃さん

「今回の実習では、止め刺しを実際に見学でき、捌くことを体験できるとのことだったので、参加しました。実際に獣害問題の現状を聞き、長崎において狩猟を行う方々の高齢化は深刻な問題だと思いました。解体作業は思っていたよりもイノシシが大きくて、かなりの力仕事でした。疲れてしまうので、1人ではできそうにありません。高齢の方にはますます大変な作業になりそうです。今回の実習ではイノシシ肉をもらえるので、そこも魅力的で参加する理由のひとつでした。料理は好きなので、ぼたん鍋(猪鍋)など、調理してみようと思います。」


環境科学部4年 田代侑香さん

「昨年も参加しましたが、関先生のゼミに所属しているため、今年は先生のお手伝いも含め、参加をしました。もともと野生動物に興味があり、人が飼っているペットではよく動物倫理の観点から多くの問題を取り上げられていますが、野生動物はどうなんだろうと考えています。解体作業も2回目だったので、昨年よりもうまくできたけど、1人でできるくらい上達したいと思います。昨年は、すき焼き、バルサミコスソースのステーキ、牛丼ならぬイノシシ丼を作りました。今年は臭みに注意しながら、スペアリブに挑戦しようと思っています。4年生なので、卒論『野生動物との共生の倫理―現場で活きる環境倫理学の構築に向けて』を執筆しているのですが、今回の経験も踏まえ、執筆しようと思います。」



今回ご協力いただいた諫早市鳥獣処理加工販売組合の簗瀬日出夫さんにもお話を伺いました。

「普段は60歳以上の人しかいないため、学生が来てくれると活気があふれ、いい刺激を受けることができます。また、実際に体験してもらうことで、獣害に対する理解が深まるので、この実習はいい機会だと思います。最初の頃は実習を行うだけでしたが、昨年は狩猟免許を取得した学生もいて、年々学生の興味も増えているのかなと感じています。今年は12月に特進コースを実施されるようで、楽しみです。また、毎年実習後に学生らのレポートを見せてくれますので、若い人がどういったところに関心を持つか、注目しています。この実習がきっかけで、将来このような職に就く学生がいてくれたら嬉しいですね。また、学んだ事や経験したことを若い人同士で広げてくれることも期待しています。今後も我々に刺激を与えてくれると思いますので、楽しみにしています。」






今回は諫早市鳥獣処理加工販売組合のご厚意で、イノシシのひき肉をいただきました。

実習に参加した学生だけでなく、教員やご協力いただいた方々にとっても、この実習は獣害や野生動物との共生について深く考えるいい機会になっているようです。今回の実習を通して、将来獣害対策に関わる人材が育ってほしいですね。


環境科学部HP

http://www.env.nagasaki-u.ac.jp/

環境科学部HP入試ページ

http://www.env.nagasaki-u.ac.jp/exam.html