大学案内Guidance
2024年03月25日
まず初めに、先の能登半島地震により犠牲となられた方々に謹んでお悔やみを申し上げますとともに、被災されました皆様、またその関係の方々に心からお見舞い申し上げます。そして、被災地の皆様の安全と一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。
改めまして、学生の皆さん、長崎大学教職員一同を代表しまして、卒業・修了誠におめでとうございます。また、これまで支えて下さったご家族やご親族の方々におかれましては、長きにわたりご支援をいただきましたことへのお礼とお祝いを申し上げます。
ここにいる卒業生・修了生の多くは、令和という新時代になって本学の学生となられた方々と思います。しかし、それを実感する余裕もないくらい新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの中、講義、研究、部活、アルバイトなどほぼ全ての面で制限を受ける学生生活を経験してきました。そのような状況を乗り越えて、ここにいる君たちを大変誇りに思います。今、新型コロナウイルス感染症が5類へ移行したことを受け、社会経済活動の正常化が進みつつあることを皆が実感しています。そして、これから君たちがキャリアを築いていく国際社会も新たな時代を迎えようとしています。
デジタル化の加速、グローバルな協力と連携、医療・公衆衛生の強化、サプライチェーンの再構築、社会的・経済格差の是正など、コロナ後の国際社会がより持続可能でレジリエントな社会を構築するための機会となるでしょう。その一方で、物価高騰や人手不足の影響等により、依然として厳しい状況に置かれている事業者や災害などからの復興が進まない地域で暮らしている方も多くいらっしゃいます。
例えば長崎大学が復興支援に深く関わってきた福島では、東日本大震災から13年が経過したものの、福島第一原発については、廃炉措置、避難住民の帰還、除染、健康管理、賠償等の課題が山積しています。現在も、約2万5千人の住民が避難を余儀なくされており、除染や汚染廃棄物処理も順調に進んでいるとは言えません。さらに世界に目を向けると、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエル・パレスチナ問題など不安定な情勢が続く地域では、未だ多くの犠牲者と避難民が出ています。
コロナのパンデミックと同様に、今や気候変動による災害や紛争の影響は当事国や周辺国だけでなく国際社会全体への波及速度を速め、グローバル化の恩恵よりも負の影響を議論する時代となっています。
例えば、一国での経済の崩壊や政治的な混乱が、国際的な貿易や金融市場に連鎖反応を引き起こすことがあります。また、環境問題や感染症の拡大も、様々な文化や価値観すらも国を越えて連動し、地球規模での対応が必要となります。このような連鎖的な影響は、一つが倒れれば次々に倒れていくドミノ倒しのように、国と国、地域と地域に波及していきます。このため、国際社会は一つの国の問題に対しても敏感になり、その影響が広がる可能性を考慮して協力し合う必要があります。
こういった背景から今や多様化、ダイバーシティへの対応は、社会や文化において異なる背景や特性を持つ個人やグループの問題にとどまらず、国際的な交流と連携が拡大し、これまでの単一の視点や統一的なアプローチではなく、多様な要素や主体が共存する国際社会に波及しています。そんな多様化、複雑化する国際社会に、新社会人として身を投じる諸君の中には大変不安を抱くものもいることでしょう。
でも、考えてみてください。本日、卒業・修了する皆さんの中で誰一人同じ人間はいません。それぞれ異なる環境や過程を経て、今、ここに君たちはいます。当たり前のことですが、そもそも人間には多様性があります。様々な講義、実習、試験などの厳しいカリキュラムを乗り越えてきた君たちがいる一方で、残念ながら同期入学の全員が順調に進級してきたわけではありません。また本日卒業・修了する全員が新年度から社会人として就労するわけでもありません。我々のキャリア形成そのものが人間の多様性の一つだと捉えることができます。
再生医療のテーマの中でよく話題になるiPS細胞やES細胞は、骨、筋肉、神経、心臓など、ヒトの体のあらゆる細胞を作り出し、無限に増殖できる能力をもつ多能性幹細胞ですが、遺伝子の活性に必要なきっかけとなる転写因子一つでその分化運命は異なります。
これからの人生についても同じことが言えます。君たちの多くがそのキャリアの中で優れた社会人や研究者として成功することを願っていますが、順風満帆な人生の途中でも、些細なことがきっかけで働く喜びを失うことや期待した研究成果が出ずに挫折を味わうこともあるかもしれません。でもそれもまた、多様な人生の一側面です。
君たちがこれから身を投じる国際社会は、超高齢化社会が迫りくる中、これまでの産業構造の転換がなされ、ロボット、AI、再生医療など最先端の研究やイノベーション技術が急速に実用化され恩恵をもたらす一方、当然、実社会が求めるものも以前より複雑、多様化しています。荒れ狂う情報の海の中で常に決断と選択の連続の人生を過ごしていることを日々痛切に感じることになるでしょう。
それでは多様性の時代を生き抜くために必要なことは何でしょうか。
私は学び続けることだと思います。
同様のことを生成AIに尋ねると、第一に寛容さと理解、次に柔軟性と適応力、最後にコミュニケーション能力だという回答でした。確かに完璧な答えですが、これらも結果的には学び続けることで向上していく能力です。変化する社会や環境に適応し続けるためには常に好奇心を持ち、自ら学びたいという意欲を持つことが重要ではないでしょうか。
一方、この多様性の時代における社会人は、これまでと異なる責任と重圧があることは間違いありません。そのことを自覚した上で、その責任から逃げずに常に向き合う気持ちを持つこと、重圧に押しつぶされるのではなく逆にそれを楽しむことができるようになって欲しいと願っています。そのためのヒントは学び続けることによって得られるはずです。
「明日のことを思い煩うなかれ。明日のことは明日思い煩え。一日の労苦は一日にて足れり。」
これは新約聖書にあるイエス・キリストの言葉です。若い君たちだからこそ、先のことを思い煩って悩むよりも目の前のことに全力投球することに専念してもらいたいと思います。どんな大変なこと、困難なことも、学びを重ねることで、いつか必ず終わりが来ます。
復興の歴史を紐解けば、君たちが学生生活を過ごしてきた長崎こそが良い例です。長崎に原子爆弾が投下されてから間もなく80年の年月が経とうとしています。壊滅的な被害を受け、100年は草木も生えないと言われた長崎の街は、見事に復興を遂げ、核兵器廃絶と恒久平和の願いを世界へ訴える国際的な平和都市として蘇り、今や100年に一度と言われる変革を遂げようとしています。この長崎の復興もまた、それを支え、今に繋いできた一人一人の学びの蓄積によるものです。
長崎大学もその復興の歴史の一員として、これまでも多くの素晴らしい人材を輩出する役割を果たしてきました。そして本日、また新たな希望を世に送り出す日を迎えています。
社会人としての道を歩む中で、学び続けることを大切にし、意識してください。母校で培った知識や経験を活かし、常にあらゆることに好奇心を持ち、自分自身の研鑽に励み、社会への貢献を果たしてください。皆さんの知識、熱意、そして創造力は、世界にとって貴重な資源です。それを活かし、長崎大学が掲げるミッションであるプラネタリーヘルスにチャレンジし、社会や世界に貢献していくことを期待しています。
最後に、卒業生・修了生のみなさんに心からのエールを送ります。
自信を持って未来に進んでください。卒業・修了後も、長崎大学は皆さんをずっと応援し続けます。共に歩んできた仲間たちとの絆を大切にし、未来への挑戦を楽しんでください。皆さんの素晴らしい未来を心から祈っています。
卒業・修了おめでとう
長崎大学学長 永安 武 |