大学案内Guidance
2017年10月01日
2017年10月1日、長崎大学第15代学長に就任致しました。長崎大学は長崎という地域の核であり、持続的成長の糧であります。なぜなら大学の学生は今後の50年を支える財産であり、地域や社会を活かすも衰退させるも若者次第だからです。特に長崎は毎年1%を超える人口減少が進み、発展の余力を減衰しています。これはすなわち未だ人材が不足していることの証であり、単に高齢化社会や出生率の低下ではなく、地域の魅力を創出したり、周知したりと手を加えるべき部分がたくさんあることを示しています。
若者という資源がいかに社会を変えうるかを示すために、我々長崎大学の教員は、自らが地域社会の一員として活動するだけでなく、学生を通して魅力ある社会を提示し、学生には社会で踏み出す一歩目から全力で走ることができるよう支える重要な役割を担っています。
学長就任に当たり、私は長崎大学と長崎の輝かしい将来のために、具体的には以下の4つのことを目指したいと考えています。
もう少しかみ砕いて言うと、学生が自ら考えて社会に貢献できる事柄へ投資し、基礎から積み上げて結果を出していく自立と特定の分野に固執するばかりでなく、多様な分野を統合できる柔軟性の創出に力点を置く教育ということになるでしょうか。そのために、片峰茂前学長が教養教育に導入された「モジュール方式」という大胆な仕組みを土台に、学部専門教育を充実させることで早期に新しい仕組みを確立したいと思います。
教育面では、基本的には入り口と建物と出口それぞれの改革を目指した3ポリシー(入学者受け入れの方針、教育課程編成・実施の方針、学位授与の方針)に基づく、教育の体系的な実施と評価を強力に進める必要があります。また、特に大学院教育において、グローバルに通用する教育課程の編成および成績評価の実施が急務です。
まず、入学試験については、本学の目指す方向とマッチする学生を選ぶために、大学入学共通テストと個別学力試験および入学者受け入れの方針との整合性を目指した検討を進めています。同時に、学生の学習時間を確保し、予習や双方向の議論を通して問題意識を醸成し、自立させ、卒業へと導きます。入り口から出口まで、制度や環境を整えて、学生は研究にも参画し、国内および海外の経験を積み、あらゆる問題に柔軟に対応できる、長崎大学の特色を生かした「現場に強く、行動力のある」学生を育てたいと思います。
学生諸君に特に望むことは「学びと勇気ある挑戦」です。社会の内向き傾向を反映し小さくまとまった学生では、今後の予測困難な未来を生き抜くことは厳しいでしょう。挑戦しては失敗し、さらにその失敗を糧として、新たな挑戦を続ける勇気を期待しています。学生の間は、どれだけ検証可能な失敗をするかが最も重要で、失敗することが推奨される希有な時間です。そのためには、教員自身の学びへの積極的姿勢を学生に示すことも重要と考えています。
大学の評価指標では、研究が教育とともに極めて重要とされます。そして、最高学府で研究される科学が、ヒトに幸福をもたらさなければ、何のためにあるというのでしょうか。念のために断っておくと、ヒトに幸福をもたらすものが、前もって全て分かっているわけではないので、一見外部からはわかりにくいものもありますが、幸福を希求しなければならない目的の問題です。
幸福を定義することは簡単ではありませんが、幸福でないことを指摘することは難しくありません。社会として幸福でない未来を過ごさないことは幸福の条件の一つでしょう。日本で唯一、間違いなく幸福でなかった被爆という経験を持つ本学は、これを最も深く理解している大学です。世界が不安定化している今こそ、社会が壊滅に向かう前に、人類の平和に貢献する研究を希求すべきです。
長崎大学は、すでに私たちが直面する脅威に対していくつかの答えを用意してきました。例えば、グローバル化によって顕在化してきたエボラウイルス病や新型インフルエンザなどの新しい脅威となる病原体に対し、すでに研究・臨床の手を次々と打ち出しています。さらに総合大学としての利点を生かし、部局を横断した深みのある研究や教育の充実、例えば医療技術に関する医学・工学、海洋に関する水産・工学、環境に関する環境・工学、医療経済に関わる医学・経済、子供の心に関する医学・教育など、ニーズやシーズに応じて多様な対応をしています。こうした長崎らしい研究を盛んにしていきたいというのが、私の目標です。
2017年4月に医歯薬学系で行った組織改革である「生命医科学域」の設置は、従来の学部や研究科、小講座の枠を超えて学際的、先進的な大学院学位プログラムの創設を可能にしました。今後は水産、環境、工学などの理系と経済、教育、多文化などの人文社会科学系の学域的な研究科を創設したいと考えています。
長崎県や長崎市は人口の流出が続き、同時に基盤産業にも影が差しています。こうしたなかで、大学こそが、地域からグローバルに展開する大きな可能性を持つと考えています。
長崎大学は学生9000人に、教員や病院職員などを加え、1万人を大きく超える組織であり、長崎市の人口の40分の1を占めます。9000人の学生のうち、70%は県外出身者です。この学生たちが卒業後も県内に留まるためには、仕事の創出が不可欠です。産学官の連携は当然のことですが、斬新なアイデアで起業を促すよう学生を育てるのも教育の一環として重要かもしれません。
例えば、県庁移転や新幹線開通に伴う駅前の再開発によって、街並みの大きな変貌が予想されます。駅前の再開発に呼応した、大学周辺における「学ぶ場」の創造に関して様々な提案を出して貰い、学生と教職員、加えて地域や行政との共同作業で大学のマスタープランを大胆に作成します。若者の衣食住をテーマとした消費動向の研究や地域との関わりからイノベーションを創出し、若者が夢を育てながら、自ら挑戦し、起業する大学を目指します。
本学は大学院学生を含めた9000人の学生たちを1200人の教員と1800人の職員で支えており、その活動は、約570億円の予算で地域総合大学として運営されています。長崎においてこれだけの規模の企業体は多くはありません。規模が大きくなれば、得るものと失うものがありますが、一人一人がプラスの方向へ少し変化するだけで、大きな収益となり、収益は本学の職員・学生へ還元される正のスパイラルが始まります。ただし、そこまでの道のりは平坦ではありません。
長崎大学への国からの運営費交付金は、法人化された平成16年には合計で173億円ありましたが、平成25年には20億円減の151億円に激減しました。平成29年までに10億円回復し、160億円となっています。今後、若い人の人口が減る中、財政的には厳しさを増す一方でしょう。そうしたなかで、自分たちの持てる力をより有効に使い、研究力を一段と高め、外部資金を獲得することが重要です。
長崎大学の評価を高めるために、まずは教員が自分の持てる力を最も得意とする領域で最大限に発揮することが近道だと考えています。そのために教員一人ひとりが得意分野を明確に自覚するところから始めます。教育への貢献、研究力、地域貢献、グローバル化への貢献、外部資金獲得力などを数値として明確化し、どの領域に特に力を割くべきかを選択して貰い、十分な力を発揮してもらいたいと思います。
私が目指す改革は一朝一夕にはなりませんが、長崎大学の5年先、10年先を考え、素晴らしい大学と評価される目標を本気で打ち立て、そこに向かって邁進したいと考えています。