2024年10月25日(金曜)
大村湾の古称「琴海」に抱かれた大村藩は、徳川の治世下にありながら、戦国時代からの血脈を保ち続けた数少ない大名家の一つである。大村藩は、表石高が2万7千石余に過ぎない小藩だが、幕末期、藩内の旧勢力を排除し、倒幕の急先鋒である薩摩、長州、土佐と肩を並べて近代日本の成立に大きく貢献した。 明治維新当時、「薩長土肥」の「肥」は「肥前」大村藩であると言わしめることになるのだが、ともすれば雄藩の中に埋没したかもしれない大村藩を表舞台に押し上げ、倒幕の最前線で活躍する場を作ったのが、藩士で、幕末の剣豪の一人として名を連ねる渡辺昇であった。
大佛次郎の「鞍馬天狗」のモデルとも言われ、この主人公に劣らぬ活躍をしながら歴史の中に埋もれていった渡辺昇を、今、蘇らせ、同時に、大村藩の躍動の姿を追った小説「琴海の嵐」を、著者が自ら解説する。