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小児の肺炎球菌ワクチン2回接種スケジュール、WHO推奨の3回接種に劣らない保菌抑制効果を実証

~肺炎球菌ワクチン接種回数削減がより経済的で持続可能な予防接種政策をもたらす~

 長崎大学 熱帯医学研究所 小児感染症学分野 吉田レイミント教授、樋泉道子准教授は、英国ロンドン大学衛生・熱帯医学大学院 (London School of Hygiene and Tropical Medicine: LSHTM) のKim Mulholland教授、Stefan Flasche教授、ベトナム国立衛生疫学研究所 (National Institute of Hygiene and Epidemiology: NIHE) のDang Duc Anh教授らとの国際共同研究で、3歳未満小児への肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)キャッチアップ接種にてワクチン血清型肺炎球菌を制御した後、PCVの2回接種スケジュール(1回の初期接種と1回の追加接種:1p+1)が、WHO推奨の3回接種スケジュール(2p+1 または 3p+0)と比較して、ベトナムの小児におけるワクチン血清型肺炎球菌保菌の制御において、劣らない効果を持つことを明らかにしました。
 この研究結果は、VT肺炎球菌が制御された環境では、2回接種スケジュール(1p+1)が小児の肺炎球菌保菌・感染症の予防に有効な選択肢となり得ることを示しています。

 ≪ポイント                                         

▶肺炎球菌感染症※1の多くが肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)※2によって予防可能ですが、PCVが 高額であるため、低中所得国での導入が遅れています。
▶PCV導入から数年後には、ワクチン血清型肺炎球菌に対する集団免疫が確立し、ワクチン血清型肺 炎球菌の地域での循環が大幅に減少します。
▶現在、WHOはPCVの3回接種スケジュール(2p+1または3p+0)※3を推奨しています。ワク チン血清型肺炎球菌に対する集団免疫が確立した後は、2回接種スケジュール(1p+1)でも十分にワクチン血清型肺炎球菌の抑制が維持できるという仮説が提唱されています。
▶本研究により、1p+1スケジュールがWHO推奨の3回接種スケジュールと比較して、ワクチン血清型肺炎球菌保菌制御に対し劣らない効果を持つことが実証されました。
▶「本研究は科学雑誌『New England Journal of Medicine』(2024年11月28日午前7時、日本時間)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2400007 に掲載されます。

≪用語説明≫
※1肺炎球菌感染症
 肺炎球菌感染症は、特に2歳以下のこどもで重症化しやすく、肺炎、髄膜炎、菌血症、敗血症、中耳炎などの病気を起こす感染症です。世界的には、5歳未満小児の死亡の主な原因の一つであり、そのほとんどが低中所得国で発生しています。

※2肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)
 PCVは、肺炎球菌感染症を予防するためのワクチンで、ワクチンに含まれる血清型の肺炎球菌(ワクチン血清型肺炎球菌)への直接的な保護(ワクチン接種者本人の免疫)と間接的な保護(集団免疫)を提供します。これにより、ワクチン血清型肺炎球菌の保菌を減少させ、病気の発生を抑えることができます。

※3 WHOの推奨接種スケジュール
 世界保健機関(WHO)は、PCVを以下のいずれかのスケジュールで接種することを推奨しています。
●  初期接種3回接種スケジュール(3p+0): 乳児期に3回接種
●  初期接種2回+追加接種スケジュール(2p+1): 乳児期に2回接種し、9か月以降に追加接種
しかし、PCVは高額であることが多くの低中所得国で導入の障壁になっています。

 ≪研究の背景≫                                        

▶世界において、Gaviワクチンアライアンス(低所得国の予防接種率を向上させることにより、こどもたちの命と人々の健康を守ることを目的として2000年にスイスで設立された官民連携パートナーシップ)の支援を受け、2014年までに45か国、2019年までに60か国(対象国の80%以上)がPCVを導入しました。PCVが高額であるためPCV支援費用はGaviの総予算の40%を占めており(Gaviは2009~2020年にPCV支援費用として33億米ドルを拠出)、これを削減し、他の重要なワクチンへの資金を増やすことが重要な課題となっています。
▶先進国での研究では、PCV導入後7年以上経過すると、ワクチン血清型肺炎球菌がほとんど見られなくなり、4回接種した場合と3回以下の接種をした場合の効果に違いがなくなることが報告されています。
▶この知見に基づき、ワクチン血清型肺炎球菌に対する集団免疫が確立されれば、PCV接種回数を2回に減らした投与スケジュールでも、WHOが推奨する3回投与スケジュールと同様の予防効果が得られるという仮説を立て、本研究を実施しました。

 ≪研究手法と成果≫                                      

▶試験場所:本研究は、ベトナムのニャチャン市にて実施されました。ニャチャン市は長崎大学の海外研究拠点のひとつです。
▶対象者:ニャチャン市の27のコミューン(地域)に住む小児。
▶キャッチアップワクチン接種:WHOが推奨する3回接種スケジュールでPCVをPCV介入群の3歳未満小児全員に接種しました(12,683人が少なくとも1回PCV接種)。
▶PCV介入群:コミューンは4つのPCV接種スケジュール(2p+1、3p+0、1p+1、0p+1)に無作為に割り付けられ、キャッチアップワクチン接種の1ヵ月後からPCVの定期的な接種が導入されました(期間中計31,385回接種)。北部の3つのコミューンは接種なしの対照群としました。
▶肺炎球菌保菌調査:ニャチャン市の2歳未満の小児のワクチン血清型肺炎球菌保菌に対するPCV接種スケジュールの違いによる影響を評価するため、PCV導入前および導入後毎年保菌調査を実施しました(6回の保菌調査対象計18,652人)。肺炎球菌の保菌と肺炎球菌血清型同定には、PCR法、培養、マイクロアレイ法が用いられました。
▶非劣性解析:ワクチン血清型肺炎球菌保菌の減少において、1p+1スケジュールが2p+1または3p+0スケジュールに対し劣らない効果があるかを解析しました。

図. ニャチャン市PCV接種スケジュール比較試験

▶結果:約3年半PCVを高い接種率で使用したところ、1p+1接種スケジュールは、2p+1または3p+0スケジュールと比べて、乳幼児のワクチン血清型肺炎球菌保菌を抑える効果において劣らないことが確認されました。さらに0p+1スケジュールも非劣性を示し、緊急の環境下における使用の可能性が示されました。この結果は、特に低中所得国における今後のPCV接種政策に有用なエビデンスを提供するものです。

 ≪今後の期待≫                                        

 本試験結果は、PCVの1p+1接種スケジュールがワクチン血清型肺炎球菌保菌を抑制する代替スケジュールとなり得ることを示しています。本研究結果は、ベトナム保健当局およびWHO肺炎球菌作業部会によって評価され、PCV接種政策に助言をするWHO予防接種専門家戦略諮問グループ
(SAGE:Strategic Advisory Group of Experts on Immunization)に提出されます。
 PCVの接種回数を減らすことで、PCV接種プログラムの費用負担を軽減し、持続可能性を高めることが期待されます。これにより、GaviワクチンアライアンスのPCV予算を3分の1削減でき、その分を低中所得国における他の重要なワクチン支援に充てることで、より多くの命と健康を守ることが可能になるでしょう。
 本研究はビル&メリンダ・ゲイツ財団の助成金(OPP1139859)、基盤となった長崎大学ニャチャン・コホート研究は日本医療研究開発機構(AMED)の感染症研究基盤整備事業の助成金(JP21wm0125006)の支援を受けて行われました。

 ≪論文情報≫                                          

<タイトル>
Effect of a Reduced PCV10 Dose Schedule on Pneumococcal Carriage in Vietnam
<著者名>
Lay-Myint Yoshida*, Michiko Toizumi, Hien Anh Thi Nguyen, Billy J. Quilty, Le Thuy Lien, Le Huy Hoang, Chihiro Iwasaki, Mizuki Takegata, Noriko Kitamura, Monica L. Nation, Jason Hinds, Kevin van Zandvoort, Belinda D. Ortika, Eileen M. Dunne, Catherine Satzke, Hung Thai Do, Kim Mulholland, Stefan Flasche, and Duc-Anh Dang.
<雑 誌> New England Journal of Medicine
<リンク> https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2400007