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生命維持の根幹となる二分子間相互作用の新規検出法を開発 がん患者さんのT細胞を、遺伝子操作なく増やして使うがん免疫治療へも期待

  長崎大学先端創薬イノベーションセンターの林日出喜特任研究員らの研究グループは、多様な二分子間の相互作用を高感度で検出できるシステムを開発し、「IFNARRS:インターフェロンα/β受容体再構成システム」と命名しました。
このシステムを使うことで、例えばがん患者さんの血液からがん細胞を特異的に認識し抗がん作用を持つT細胞を選び出し、遺伝子操作を加えることなく、活性化して増殖させる道が開かれました。これからのがんの免疫治療への貢献が期待されます。
 なお、この研究に関する論文は、米国時間8月5日の週の米国科学アカデミー紀要(PNAS)電子版に「Development of a highly sensitive platform for protein-protein interaction detection and regulation of T cell function」(https://www.pnas.org/doi/epub/10.1073/pnas.2318190121)として掲載されます。
 
 細胞にウイルスが感染すると、その細胞はインターフェロンα/β(IFNA)というタンパク質を細胞外に出します。そのIFNAをその細胞自身及び近くにいる細胞がインターフェロン受容体-1/2(IFNAR-1/2)いう2つの異なるタンパク質で感知し、そのシグナルを細胞内に伝え、ウイルスを排除します(図1)

 一方、私たちの身体では、多くのタンパク質が他のタンパク質との相互作用(結合)によってシグナルを伝達しながら生命を維持しています。そこで、予め結合することが知られているXとYという2つのタンパク質それぞれをこのIFNAR-1/2いう2つの異なるタンパク質につないでみたところ、XとYが結合することにより、シグナルが細胞に伝わることが判りました(図2)。しかも、このIFNARRSを使うことで、XとYという2つのタンパク質の結合をこれまでになく高感度に検出(ルシフェラーゼ活性等)することができるようになりました。さらに、このシグナルを目的とする別のシグナルに変換することもできることが判りましたので、このシステムを使うことで、細胞間のシグナルの受け渡しを目的に沿うようにデザインすることが可能になりました。

 例えば、免疫の司令塔として知られるT細胞はそれぞれ特有の受容体を持ちますが、その中にはがん細胞に特異的な抗原を認識する受容体を持ったT細胞があります(図3では緑色で表示)。
 がん細胞を死滅させるには、別の免疫細胞である樹状細胞の助けによりこのT細胞を活性化し増やす必要があります。そこで、IFNARRSを使って樹状細胞類似の細胞(G-188細胞)を作成しました。G-188細胞は、がん患者さんご自身が持っている抗がん作用T細胞から分泌されるインターフェロン-ガンマ(IFNγ)を検出し、そのシグナルからT細胞活性化遺伝子群、T細胞増殖因子を発現させることでその抗がん作用T細胞がさらに活性化して増殖するように、助ける役割を持ちます。G-188細胞を用いて、患者さんの血液中にある抗がん作用T細胞を、遺伝子操作を加えることなく、体の外で効率よく増殖させた後に患者さんに戻すことできるようになれば、がんの免疫治療に大きな貢献ができると期待できます。

 (掲出:2024年8月6日10:00)
(insert:August 6, 2024 at 10:00 a.m.)